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世界のモダンハウス

世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
住宅展示場で実物を見る前にイメージを膨らませ、あなたの家づくりのヒントにしてください。

【第8回】壁が呼吸する家

コンクリートのシンプルな外観はスタッコでグレーと黒に塗り分けられ、開口はすべて繋げられている。

多人種都市のミニマルな家

カナダの首都、トロントはオンタリオ湖に面する北米4番目の大都市である。周辺部の人口を含めると約612万人の人が生活している。トロントとは先住民の言葉で「人が集まる場所」を意味するが、その名の通り、様々な人種が住むモザイク都市といえる。この住宅があるのは、湖とは逆の南部の地区、ノースヨーク。設計したのは地元トロントにベースを置く建築事務所RZLDBで、主宰者はイラン出身の建築家、レザ・アリアバディ。テヘラン大学とカナダの名門マクギル大学の大学院で建築を学んだ。各地で教鞭もとりつつ、この道10年の中堅、まさに脂ののった建築家である。特定のスタイルにはこだわらないシンプルでキュービックな小型住宅をつくっている。

機能を分ける黒とグレーのボリューム

 「インスター・ハウス」と呼ばれる、この家は三階建て。コンクリートと木とスチールを主材料とする、いわゆるミニマル・ハウスだ。1950年代から敷地にあった、「半分の家」というニックネームで呼ばれていた1階と中二階からなる小さな構造を核として、2014年、新たに蘇らせた住宅である。
 新しい計画では、東西に延びる二つの細長いボリューム(空間の塊、棟などのこと)を明確に分けて定義し、その間の階段に置くボイドを作って結びつけ、一つの形としたレイアウトである。面積は二つを合わせて205平方メートルになる。
 外装はそれぞれのボリュームごとに黒とグレーの2色のスタッコで覆われた機能的な印象だ。設計者のアリアバディは言う、「グレーの大きなボリュームは『奉仕される空間』と位置づけ、黒のボリュームはそのレプリカとして『奉仕する空間』と区別されている。前者は広々と自由に使える柔軟な居住空間で、後者はそれをサポートするための実際的な用途のための空間として、トイレ、機械室、収納、通路などをまとめている」。


二つのボリュームの間にボイド空間があり、
ここからは家全体の様子がうかがえるような構造になっている。
※ボイドとは建物内にある空洞の空間のこと。

内部の様子が一目でわかりやすい構造

 見た目ほど閉鎖的でなく、実は融通無碍であるという感じを強調するため、正面側のボリュームのガラス張り開口はすべて繋げ、その一方で外観を大きなコンクリートの塊のように見せるため継ぎ目を出さず、シームレスに仕上げている。
 階段とその周囲のボイド空間はブラックボリュームの中ほどにあり、各フロアレベルを明快に分け、二つの断面としてわかりやすく見通せるように設計されている。

1階に入ったところにはキッチン。食べるのはカウンター式の
ダイニングバンケットで。階段奥がリビングルーム。
2階の階段まわり。ガラス張りの階段なので見通すことができるが、
踏板には木製を使っており温かみがある。
地下、1Fメインフロア(キッチン)、2F子供とシェアする書斎とベッドルーム、3Fマスターベッドルームとパティオ。

 メインのフロアでは、西側にリビングルーム、東側にキッチンとダイニングバケットという区分だ。
 その上層階にはベッドルームが二つあり、これはガラスのブリッジで繋がっており、これはキッチンを見下ろし、子供とシェアする書斎になっている。
 最上階は、広めのマスターベッドルームで、その横には屋上パティオを配し、美しい公園の緑を眺めながら、入浴できる屋外ホットバスまである。
 狭い敷地一杯にボリュームが建てられているが、訪れる人はメインのボリュームから入り、この家の開放感を感じることができる。

3階の主寝室から浴室を見返す。壁が白だが床には木を使い冷たさはない。屋外用のバスタブも備えている。

 インテリアを見ると、壁面は圧倒的に白く広がっているが、エレメントの部分や造作に黒を使ってアクセントとしている。さらに床と階段の踏み板には木を使い単調な色味にならないような配慮がなされている。
 今回の家は二つのボリュームを明確に分けている。同じボリュームを二つ並べれば、二世帯住宅にもなるだろう。また、住まい方や住人の仕事や趣向で空間やエリアの用途をハッキリと分ける建て主も増えている。例えば、趣味のための空間のためにボリュームが欲しいケースだ。愛車をショールームのようなスペースに入れて常時眺めたい人もいれば、鉄道模型を走らせるための屋内空間を確保したい人もいる。楽器を愛好し、防音を施した部屋で気兼ねなく演奏したいと言う人もいる。本でもなんでも、膨大にコレクションしたものがあり、そのための空間が欲しいと言う人は少なくない。

 こうした特別な注文にも、現在のハウスメーカーならできるだけ要望に沿った提案ができ、建築家も嫉妬するようなデザインが可能である。自分や家族の生活にあった空間のボリュームを考えてから住宅展示場へ行けばどんな形で、それが実現されるかも想像しやすい。ぜひ、モデルハウスへ行ってみたい。

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