世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
住宅展示場で実物を見る前にイメージを膨らませ、あなたの家づくりのヒントにしてください。
【第32回】2棟を繋いで眺望を楽しむ海辺の豪邸
オーストラリアの雄大な自然を内外で感じるH字型の空間
2020年11月
湾を見下ろす木立の家
オーストラリアで二番目の大都市、メルボルンを抱くようなポートフィリップ湾。その東側に伸びるのが食と観光で大人気のリゾート、モーニントン半島である。メルボルンからモーニントン半島へのアクセスはよく、半島の付け根のフランクストン駅に向かう列車は15分おき、さらに周辺のビーチまでシャトルバスが運行している。この半島には試飲のできるワイン貯蔵所が50以上あり、それを飲みながら食事ができるレストランが軒を連ねる。ワイン以外にもクラフトビール醸造所も有名だ。海側には長いビーチとその奥のビーチコテージが連なり、ヨット、サーフィンなどさまざまなマリンスポーツができる。国立公園にも指定されており、断崖の絶景や野生動物も見られる。そんな人気リゾート地の一角、ポートフィリップ湾を臨む斜面に、豊かな緑に囲まれてこの家は建っている。
回廊のある多機能で贅沢な解放感
矩形(くけい:四辺形)の敷地に、さまざまな機能の部屋を持った広い家をつくるという施主の希望と、防風や森林火災の危険性を考慮する必要もあり、ボリュームや棟の配置をさまざまな角度から検証した。最終的に並行する二つの棟を連絡通路でつなぐH字型に似た平面計画となった。
日照、各室の眺望など、内部と外部の関係がうまく融合されている。ジム、家庭用シアターにもなるリビング、瞑想室、読書室(書斎)、スパなど様々な用途で使える機能性の高い空間がある豪邸だ。各空間それぞれが外部の自然を取り込みつつ、家族のプライベート空間も上手に調和するように開放的な内部空間で統一されている。
敷地の中心にもとからあったユーカリの木はその南北2棟の間に残され、家のシンボル・ツリーに見立てられた。2棟の間をつなぐガラス張りの回廊は「ブリッジ」と呼ばれ、南棟の書斎から始まって庭を横切り北棟に入ると曲がってジムまで続く長い回廊として設計されている。日本家屋で言えば縁側のように外部風景を取り込んでいるので、ここを通りながら自然を感じることができる。2棟に分割されたこのH字形は、外部との接触面を多くすることで周囲との融合や借景をよりスムーズに感じられるようにという発想から計画された。
自然に溶け込む建材の工夫と構造
各棟の屋根は暗色の金属で覆われ、庇はキャンティレバー(片持ち梁)で飛び出し室内へ届く光を調整している。その庇の下にはデッキが広がっている。通りに面した南側の棟は、高床のようになっているため、リビングからポートフィリップ湾を一望することができる。高床のような設計は、眺望だけでなく外から家の内部が見えないよう配慮されている。
建材には主に天然のものを用い、家の周囲にある低い潅木(かんぼく)とも調和している。断熱効果のあるグレーのプレキャスト・コンクリート・ウォールを用い、開口部のサッシは焦げ茶色の酸化アルミニウムの被覆材を使い、周囲の緑とのコントラストを楽しめる工夫がされている。
室内では地元産の砂岩を内装建具に用い、木部にはオーストラリア固有種の広葉樹が使われて暖かみを感じるランドスケープ(景観)が特徴だ。また水も自然に溶け込むための重要な役割を演じている。2棟を結ぶ回廊(ブリッジ)の下には水が流れ、大きな水庭が配置されている。また、北棟にあるスパや浴室は低い位置にガラス開口を設けて、内部と外部の一体感を演出している。
水の流れに合わせて回廊(ブリッジ)を配置し、その回廊によって内部と外部の自然が繋がる。この家は、自然と融合するための工夫が至る箇所にみられる。
周囲の自然をどう住宅に取り込むかは現在の家づくりでも重要なポイントの1つとなっている。とくに都市の敷地の場合は、周囲に建物が近く、開口を確保することさえ難しいかもしれないが、ハウスメーカーでは意匠や構造、内部空間の取り方などで、そのハードルを解決するアイデアがみつかるかもしれない。ぜひ、住宅展示場で相談してみたい。
- Source: https://www.archdaily.com/946649/morninton-peninsula-house-turco-and-associates
- Architects: Turco and Associates
- Architect’s site: https://www.turcoassociates.com.au
- Location: Morninton Peninshula, Australia
- Project Year :2010
- Photographs: Tom Ross
- Japanese original Text: Masaaki Takahashi