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世界のモダンハウス

世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
住宅展示場で実物を見る前にイメージを膨らませ、あなたの家づくりのヒントにしてください。

【第29回】2つのテラス空間が美しい平屋のモダン住宅

自由な発想で外部空間も取り込むスロバキアの住まい

庭から住宅を見返す。奥にはプール、テラスからリビングなどの室内へ繋がる。

外部と内部を融合する平屋住宅

 かつてヨーロッパの中央に位置していた、チェコスロバキアという国名を記憶している方も多いだろう。チェコスロバキアは1993年、チェコとスロバキアに分かれて今は存在しない国の名前だ。スロバキアは、ポーランド、ウクライナ、ハンガリー、オーストリアにも接する内陸の国で、大きさは日本の約7分の1。人口は約544万人と少なく、国土の3分の1を森林におおわれているという自然に恵まれた国である。首都はドナウ川をのぞむブラチスラヴァ。多民族が共に暮らし、その様々な文化が融合した古都だ。気候が温和な雨の少ない都市で、城塞や聖堂、古い橋などが数多くあり中世の面影を今に伝えている。今回紹介する住宅はこの街の東の郊外にある。道路に接する敷地にプールを持った平屋である。

 建物はシンプルなボリュームからなり、整然としたスクエア(平行)な配置でありながら、その一方で、エスプリ(知性)とエレガンス(優美さ)を漂わせる面白みが見られる。設計者によれば、「スロバキアにはあまり見られない」タイプのモダンな住宅にデザインしたと言う。外部と内部はガラスを通して連続するような印象を与える。昔からガーデニングの盛んな区域で、建築や景観に関しての規制はほとんどないエリアらしく、平面計画を見ると外部をうまく取り込んで開放感を感じることができる。

出典:google map

2つのテラスとシンプルな空間構成が魅了

左:プール側のテラスは、庭を望むため日除けとしてのフライングルーフと木製ルーバーがポイント。庭の緑とも調和して美しい。
右:右側は居住エリア、左側はガレージ、その間に石を敷いたテラスを配置。アウトサイドリビングとしても活用できる

設計上の大枠としては、メインのテラスを2箇所設けて、それぞれに違う質感のクオリティーを与え、その中間にリビングを設けるという構成になっている

平面図。2つのテラスで異なる要素の空間を自然と繋げる。

テラスの1つはプール側にあるもので、母屋との間にはバッファー・ゾーン(緩衝地帯)のような役割の回廊空間となっている。ここは陽のあたる場所であり、大きなフライングルーフ(張り出した屋根)がかぶさり、その屋根を支えるように垂直の薄い木製ルーバーが林立して直射日光をさえぎっている。
テラスのもう1つは、建物の中央にあるピアッツア(広場)と呼んでいるところであり、夏でもやや涼しい。近くには敷地にもとからあったという大きめの木をそのまま残し、石、コンクリート、レンガなどのがっちりした素材で周囲を囲っている。

中心部のキッチン。手前側は庭に面し、奥はエントランスへ続く、その両方からテラスへと繋がるつくり。

この二つのテラスはどちらも建物のほぼ中央にあるキッチンから近いところに位置しているので、テラスで食事をとることもできる。「内部は活気があり、ダイナミックで面白い。落ち着いた周辺環境に調和しつつ、居住者の好みで楽しく住むことができるニュートラル(中立的)な建築です。」と設計者は語る。

通りから見た外観。外側を囲う木製のフェンス建物がわずかにのぞく事も計算されたつくり。

この住宅の主なコンセプトは、見た通りいたってシンプルで機能的だ。向こうが透けて見える細い縦のフェンスも、通りの外側から見た時にその奥にある建物のボリューム感が抑えられて、シンプルさが際立つ。一般的な2階建てにすることを避けて平屋にしたのもそこが狙いだった。
すべての空間を地上に置き、機能と動線を考えた合理的な配置とすることで、車椅子でも移動しやすいよう配慮されたデザインである。フォルム(形状)もシンプルで爽やかだ。設計上のモチーフが拾いにくいほどおとなしい周辺環境から、穏やかで使うほどに愛着の出てくる魅力のある住宅が生まれた。

明快なインテリアでつくる外部空間との繋がり

左:リビング隣にあるピアノ室、写真でいうと左側と洗面スペースの間には中庭のような空間を配置。
右:左はガレージ、右はエントランス。その間に出来た路地のような通り道も内部空間からの一体感を感じる。

居住空間は小規模ながら贅沢な住宅だと言える。ゆったりした敷地に平屋を置き、形状を凹凸にする事で路地や中庭のような空間をつくり、外部空間を自然と取り込んでいる。それがよく分かるのが、エントランス前の空間だ。エントランスの前に配置されたガレージをあえて居住空間から引き離してできた外部空間は、内部との繋がりを意識することで室内の延長のように活用できる。プールのある庭側もテラスと続く廊下的なスペースがあり、プールまわりにはアウトドアリビングを設け、外にリビング機能を拡張できる構成だ。
これらを実現するために、居住空間はガラス張りの面を多く用い、床は段差をなくし、スムーズな繋がりを意識したアイデアがうかがえる。

左:サッシの黒以外は、白とブラウンで統一された落ち着きある室内。
右:家の中心部に位置するアイランドキッチンは、外部の目隠しルーバーをデザインに取り入れ統一感を持たせている。

内部のインテリアは、白い壁と天井に合わせて、床や壁、造り付けの収納家具など木のブラウンで統一している。サッシ等に使われている黒が空間にメリハリをもたせる。中心空間のキッチンは、アイランドキッチンでアッシュ・カラーを採用している。ここにも外部との繋がりを印象づける工夫が見られる。キッチンの一部に、プール側のテラスにある目隠しのルーバーと同様のデザインを取り入れている。対照的にアクセントとなるよう置き家具等はダークな色を選んでいる。

建物全体はシンプルでありながら、多様な住まい方に対応しており、それぞれの空間ごとに異なる表情が楽しめる魅力がある

家を建てるときに、内部と外部が自然に繋がる空間は理想的だ。そのような自然の繋がりは、壁紙や床材を選ぶ際にも意識したいポイントと言える。さまざまな色やパターンの中から、外部の空間との統一感を考え選択する場合、カタログだけではイメージしにくいため、住宅展示場へ行って実物を体験しながら考えてみるのは実にスマートな進め方だ。

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