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世界のモダンハウス

世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
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【第26回】ボックスの機能美でつくる現代版ログハウス

アメリカ・ウィスコンシン州最大の村マスコダの森に建つ、オープンプランが特徴の家

森の外れの空き地に位置するL字型の家。1階はコンクリートでガレージがある。木の扉で動物の侵入等も防ぐ。

コンパクトでシンプルな機能性

 アメリカ中北部、ウィスコンシン州は五大湖のうちの二つの湖に面し、その大半を森におおわれた緑の多い州である。この州のグラント郡とアイオワ郡にまたがる1番大きな村マスコダの森、その外れにある傾斜した伐採地に今回紹介する家は建っている。

出典:google map

敷地面積は約81.7平方メートル。三層に箱を重ねたようなシンプルでモダンな外見が目を引く。施主は隣のイリノイ州の大都市、シカゴからやってきた若い夫婦である。二人が望んだのは週末を過ごす別荘(ウィークエンドハウス)だった。限られた少ない予算の中で、施主と設計者が選んだ建て方は、出来るだけシンプルな構造と傾斜地をうまく活用し面積を切り詰めてワンルーム形式のオープンプランにするというものだった。これは実はアメリカの伝統的なキャビンやログハウスと同じ空間の構成でもある。つまり、この家は現代版のログハウスということになる。

平面図。ガレージ、バスルームなど設備は1階にまとめている。

住宅の1階は丘を掘り込んでバスとトイレの水まわり、ガレージ・道具用の倉庫を置き、上層階の生活スペースのためのインフラ設備もそこに集約している。コンクリートの台座のようなところに二つの大きな開口があり、そこからそのまま傾斜の下にアクセス出来るようになっている。コンクリートには木の扉をあてるなど温かみを感じさせるディテールが選ばれている。

ガレー・キッチンは船舶、列車等の限られたスペースで調理するために生まれたシンプルで効率を重視した機能性が特徴。

1階から階段をのぼって上の居住空間へ出ると、そこには薪ストーブがあり、階段の側には造りつけのガレー・キッチンが配されている。狭い空間では機能を集約した戸棚のようなガレー・キッチンは使いやすく、またスペースをとらないスマートな選択といえる。同じフロアに二つの小寝室も置かれている。

展望室とカーテン間仕切りのオープンプラン

丘側から見ると二階建てのように見える。突き出し部分は展望の良い書斎。

 この家で最も上の階にあり、背面から見るとL字型の垂直棒の部分にあたる突き出した塔のようなスペースは、小さな書斎であり展望室としても考えられている。この家を特徴付けるポイントの一つとしてモダンな佇まいをさらに印象づけるスペースである。この展望室から周囲を見ると木々の頂点である樹冠を見ることができ、森を俯瞰(ふかん)するような気分になれる。

オープンプランの2階、左右のガレー・キッチンとベッドルームをカーテンで仕切るシンプルなレイアウトが特徴。

この家のもうひとつの特徴として、インテリアに使われているカーテンをあげることができる。カーテンはリビングの両サイドにある空間を仕切るためにあり、床面から天井までのフルハイトで設置されている。

階段あがって側にあるガレー・キッチンも黄色のカーテンで自由に隠すことができる。

存在感のあるガレー・キッチンは、使わない時はこのカーテンですっぽりと覆い隠すことができる。同じく寝室もカーテンで隠されている。生活感の目立つキッチンや寝室といったプライベート空間を消してすっきりと見せることができる。このようにパーティションの代わりにカーテンを使うことで通気を確保しつつ、外の眺望も完全に遮断することなく楽しむことができる。現代のモダンハウスでもよく使われる手法である。

立面図。ブロックを重ねたようなシンプルな構図は周辺環境と調和を生み出す。

素材に関しては、外部も内部も出来るだけ地域で調達できる木材などを使っている。メイン素材である、セダー(杉)、打ち放しコンクリート、酸化させたメタルは付近の森や岩などの自然とよく調和している。ブロックを重ねたような構成も地形の起伏とうまく融合している。

丘側から見た外観。どの方向から見ても視線が抜ける解放感を味わえる。

外観を正面から見るとおとなしい黒いブロックがひっそりと置かれているように見えるが、違う面から見ると全く予想もしない抜け感のある形状に驚く。四方が透明なガラス張りの展望室は、小さいボリュームでありながら非常に存在感があり、いかにも現代らしい住宅といえる。ボックスを単純に重ねて置くだけでなく、外壁に金属皮膜を張りコンクリートと組み合わせるなど単調にならないような遊び心もみられる。

薪ストーブを囲み「新しい」と「古い」が融合した空間

景観を自然に取り込めるように、大きな開口部にはスライディングドアを使っています。

この家は季節ごとに違う生活を楽しむ趣向で設計されている。寒い冬の夜はストーブを囲んで家族が集まるように、夏は外の森の風景を出来るだけ大きく家の内部に取り込み心地よく過ごせるようにしている。そのために開口部はガラスのスライディングドアにしている。室内にいながら外にいる感覚を味わう事ができる。2階の開口はダイナミックに外の風景を切り取ると同時に、風が吹き抜けるため空調にあまり頼る必要のない仕様となっている。オープンプランはその意味で必然的なアイディアであり、家族はリビングに自然と集まるコミュニケーション空間を確立している。そのリビングでひと際、目を引くのが寝室とリビングの間に設置された薪ストーブ。このストーブを囲うようにテーブルやイスを配置しているのも、家族でコミュニケーションが弾むポイントだろう。

黒い薪ストーブ、木のダイニングセットとソファーの間にイームズチェアを組み合わせたシンプルなインテリア。

インテリアの趣向としては、物が少ないミニマリズム風をベースにしている。木のシンプルなテーブルとベンチシート。木のイームズチェア*と今時のシンプルな家具を共存させたチョイスが面白い。
*1950年代ミッドセンチュリーの代表的なデザイナー、チャールズ・イームズがデザインした椅子。

 今回の家では夫婦2人とペットの生活を意識しているが、たまにはゲストも滞在するかもしれない。そんなシーンを想定して壁などの間仕切りではなく、自由に仕切れるカーテンを有効的に使っている。最近では間仕切りの少ない家も珍しくなく、多くの人に好まれていることがわかる。中には水まわりにドアをつけない家もあるほどだ。仕切りのないワンルームは全体を見渡すことができ家族の間を心理的にも近づける効果が期待できる。また、幼い子供やペットなどの動きを見守るのにも便利だ。

ハウスメーカーの住宅では間仕切りひとつにしても、多種多様なオプションの中から自由に選ぶことができる。施主の希望に合わせたプランは参考になるはずだ。ぜひ展示場へ足を運んで確かめてみたい。

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