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世界のモダンハウス

世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
住宅展示場で実物を見る前にイメージを膨らませ、あなたの家づくりのヒントにしてください。

【第19回】自然の中のアーバン・ハウス

建築とランドスケープ(造園)をダウンライトとスポットライトにより魅力的に見えるよう照明計画がなされている。

自然の中のアーバン・ハウス

 ブラジルではサンパウロに次ぐ第二の都市と言われ、人口99万の都市のカンピーナス。そこからさらに緑の深い地域へ20キロほど西に進むとジョアキン・エジージオがある。今回紹介する住宅「OF HOUSE」はこの町の自然に恵まれた環境にポツンとホテルのようにたたずむ邸宅がある。周囲は緑に包まれて、他の建物は見えないまるでリゾートホテルのようだ。

出展:google map

 21世紀に近づいた頃から世界的に大都市への人口集中に陰りが出てきた傾向があるが、ブラジルでも事情は同じで、大都市から郊外や田舎へ移住する人が増加しているという。この家もそんな都市脱出派の人の邸宅であるが、内装やライフスタイルは洗練されていて、カントリーライフやアウトドアを楽しむための家という感じでなく、いわゆるアーバン・リトリート、つまり都市の中の隠れ家的な空間に近い雰囲気を濃厚に持っているモダン住宅だ。

リビングから外を見る。周囲と環境と馴染む
木製の落ち着いた家具が特徴的。
他室のテレビ・ルームのインテリアは、カラフルなクッション、
家具、絵などがあり部屋別に違った印象を与えてくれる。

 インテリアを見ると、リビングには比較的スタンダードなデザインの木製家具を用い、その色はグレーやブラウンをメインとした落ち着いた雰囲気を出している。所々にプラントを置いているが、寝室棟との間の敷地に植えられた丈の高い草や椰子の仲間のような庭木は石組みの壁ともマッチし、あたかも室内であるかのようにさえ錯覚されて心地良い。また、その背後に見える木製の格子も全体に調和している。また、他のエリアでは家具や小物にはポップでカラフルなものやミッドセンチュリー風のメタルのものなどもあって明るく楽しい印象だ。

ホテルのラウンジのようなリビングルーム

スライディングの開口を三方向で全開すると圧倒的な開放感。

 設計者のオットー・フェリックスは、1980年生まれ。13歳でDJを始め、 18歳の時ロサンゼルスでヘリコプターのパイロットとなり、更にアート活動も開始。大学で建築と都市計画、さらにマーケティングまで学んで2005年に事務所を設立したという異色の建築家である。住宅ばかりでなく様々なジャンルの空間デザインを手掛けている。

 建築の素材には木や石といった自然素材が中心に用いられ、庭や池のランドスケープ、また背景の木立ともあいまって、周囲の自然環境にしっかりなじんでいる。庭に飛び出すように配置され、三方向に最大限に開くスライディングガラス張りの大きなリビング&ダイニングは、この家の中でもっとも空間が広い空間で、三つの応接セットがあり、この家の中心的存在となっている。これと並行するように主寝室と客用寝室の二つを含む棟が植栽をはさんで並んでいる。これらのつながりに、ランドリー・ルーム(洗濯室)、小さなキッチンつきダイニング、テレビ室、シャワールームなどの機能が集約された平面構成となっている。施主の思いはすべてこの大きなリビング&ダイニングに集中しているためか、それ以外のエリアはほとんど公開されていないのが残念だ。

リビングから庭の植栽越しに寝室が見える。部屋全体は木張りが目立つデザイン。
主寝室のシャワールームは床と天井を木張りにしている。
ゲスト用寝室の洗面台。
縦格子のルーヴァーが日本的。

 ガラス張り開口の抜け感が圧倒的なこのリビング&ダイニングは、自然光をたっぷりと取り込み、スライディングで換気にも十分に対応し、まるでリゾートホテルのラウンジのようだ。ここは施主にとって社交の場として重要な位置づけになっており、「グルメ・エリア」と名付けられたエリアがあるくらいで食事空間として重視され、キッチンも大きめにとっている。はるばる遠くからこの家を訪ねてくる施主のゲストたちをもてなすためのしつらえは、要所に配したアート作品とともにどこかコスモポリタンな雰囲気さえ感じさせる。

 壁、天井、床と目につくところの多くは木張りだ。日本建築を思わせる鯉の池や縁側を連想させるデッキを設けており、木の縦格子のスライディング・パーティションを採用していることもあり、全体として禅的なスタイルだとブラジル内で評価もされている。

もとからあったかのような造園

まるで池の上に建物が浮いているような造りが特徴的。

 この住宅でもう一つ注目したい点は、ランドスケープ(造園)である。リビングのボリュームのグルメ・エリアのちょうど下に設けた池は「バイオロジカル・プール(生き物がいる池)」と呼ばれ、この池を中心として、この土地にふさわしいトロピカルなランドスケープ計画が展開されているのだ。建築はまるで池の上に浮いたように構成されており、庭や植栽はあたかも建物ができる前からこの場所にあったかのように存在しているが、実は、全てがランドスケープとしてデザインされた成果である。有害な化学物質を使うような処置や機械をいっさい使用しないで造られているので、例えば、「その水に浸かって鯉や水草と戯れてもいいくらい生態系重視の自然な池」なのだと設計者は言う。

リビングから見返すと小型キッチン付きダイニングが見える。石や木の自然素材を上手く使った居心地の良い空間。

 建築についていえば、軽量鉄鋼を使いレンガやコンクリートを使うことなく、亜鉛メッキした鉄材を使い、塗装やコーティングを適宜に施している。これによって環境に優しい構造となり、従来の工法を用いるよりも廃棄物が出ないことを視野に入れている。また、石や木などの自然素材のもつ温かみと心地良さを引き出している。

 生活の中心をどこに置くか、これは家づくりを考える時の最も重要なテーマの一つである。家族がいれば、その人数や趣向や家の中での時間の過ごし方を十分に考慮したいものだ。今回紹介した住宅では、リビング&ダイニングが家の中心であるが、多くの人にとってリビングは家のフォーカルスペース。それぞれの趣向と条件にあったリビングのしつらえを見るのには住宅展示場のモデルハウスが参考になるだろう。

  • Source: https://www.archdaily.com/897829/of-house-studio-otto-felix
  • Architects: Studio Otto Felix
  • Location: Joaquim Egídio, Brazil
  • Area:410.0 m2
  • Project Year:2016
  • Photographs: Denilson Machado - MCA estudio
  • Manufacturers: Deca, Galeria Eduardo Fernandes, Casual, Docol
  • Landscaping: Daniel Nunes
  • Illumination: Vertz Iluminação
  • Japanese Original text: Masaaki Takahashi

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