世界各地の参考にしたい個人住宅を順次紹介していきます。
住宅展示場で実物を見る前にイメージを膨らませ、あなたの家づくりのヒントにしてください。
【第10回】木製ルーヴァーと美しい家
日本でも近年人気のあるルーヴァー。アッシュ材の木製ルーヴァーが建物の外観を柔らげ、視線も遮蔽する。
2017年3月
家づくりの勘所を知る施主
オーストラリア第二の都市、メルボルンの中心部から南東へ8キロの郊外にマルヴァーン地区はある。英国から移入されたヴィクトリア様式の古い建物や公園などが残っている静かな環境だ。この住宅は、その中の386平方メートルという小さな区画で計画された。
一方通行の道路に面し、周囲にはコテージ風の平屋が多く立ち並ぶ。敷地に元からあった建物も平屋だったが、二階建てに立て直された。この家の特徴の一つは、詳細は後述するが、通りからセットバックした部分を有効に使っている点である。建物の配置も敷地に対して直線でなく微かな傾斜をつけたものになっている。
施主の父は建築家であったため、今回の家づくりで建築家が関わるに当たっての重要性を諄々と説得する手間が省けたと建築家のダン・ウェブスターは言う。「設計のプロセスを通して一緒に参加してもらうことで、より使い勝手の良い、また付加価値のある住宅をつくることができました。施主は建築設計の重要なエレメント(要素)であるいくつかのソフト面でのテーマをよく理解していました。具体的には、内部の動線、風通し、自然光、パッシブソーラーハウスの設備等をどうすればいいか、というような点です」。
目立つようで周囲に溶け込んだファサード
マルバーンという小規模開発という地区において、この住宅のデザインは、シンプルさの中に永続性のある地素材のあれこれを混用して、変わりゆく自然環境や人々の多様な居住生活を考慮した提案となっている。
まず、隣接する家々と差異化をつけるために、建物は敷地の直線に平行させず、角度をつけている。こうすることで、ファサードがより見やすくなり、外部に対して開いている印象を強め、視認性が高まる。とはいえ、セットバックしているので周辺道路からは控えめに見え、でしゃばり感はない。このようなやや建て込んだエリアで、二層建てのボリュームは、見た目に大きくならないよう工夫が必要である。
クルマのスペースをスマートに解決
地下室は普通の地下室よりも多くのアメニティを重視し、一階からの機能面での負担を軽減するためにゆったりととり、地上部分の平面に合わせている。地下室に四台分の駐車スペースを確保しているのもユニーク。車に関していえば、正面の道路が一方通行で、路上駐車は認められていないので、敷地内の前庭に通常の駐車スペースを確保している。ここに車を停めれば、キャンティレバー(片持ち梁構造)で突き出した木組みのボリュームの下に鎮座することになり、それが遮光スクリーンの役目をする為、西陽を遮ることができ、階段踊り場にある「カジュアルオフィス(書斎)スペース」に光が入らないようにできる。
また、内部の居住空間においては、柔軟性を持たせており、三人の子供が成人しても、それぞれに個室を設えて一緒に住むことができるつくりになっている。ウッドデッキの中庭は、敷地北側から伸びており、主寝室と、キッチン、ダイニング、リビングの側の二方向からアクセスできる。これはセットバックをうまく活用したデザインだ。
ルーヴァーが内外を緩く分ける
住宅にとって内部と外部の関係性、つまり内外からの「見え方」は重要であり、デザインにも円滑に反映されなくてはならない。ここでは、白みのあるアッシュ材のティンバー・スクリーン(いわゆるルーヴァー)が建物正面を覆い、また地上ではフェンスとなって、建物の正面ファサードを柔らかく見せている。
また、書斎に入る光を制限する実用性もある。木という自然の素材を使い、全体の構成にアクセントがつけられる。コンテンポラリーでイマドキの感じがある家でありつつも、持続性が感じられるようにするのが建築家にとっては一つの挑戦的な試みだった。
この家に見るように、クルマがある場合、どう停めるか、また収納するかは家づくりにとって大きなテーマの一つである。自分の要望を叶えてくれるデザインをさがして展示場に行ってみたい。
- Malvern 01 - Courtyard House
- Location: Malvern VIC 3144, Australia
- Source:http://www.archdaily.com/803318/malvern-house-01-dan-webster-architecture
- Architect:Dan Webster
- Dan Webster Architecture Official Site
- http://www.dwarchitecture.com.au
- Photographs:Jack Lovel
- Japanese original text:Masaaki Takahashi