【第104回】 実家の相続準備。 建替え、リノベーションどちらを選ぶ?
2021.12.21
全国の空き家の数がどのくらいか想像がつきますか?「846万戸(平成30年統計局データより)」あるそうです。全国の家の総数から割合を算出すると13.6%になり、約7件に1件は空き家となります。空き家の増える原因としては、人々の寿命が延びたことで高齢の親が介護施設を利用し、元々住んでいた実家が空き家として残される事などがあげられます。
今後実家をどうするか、誰が引き継ぐかは重要なテーマになります。今回はいずれ考えるであろう、実家を「建替え」するか「リノベーション」するか、判断する際のポイントをご紹介します。
【1】実家をどうするか、相続前に気にすべき2つのポイント
親が高齢になるとその実家をどうするか、という問題に直面します。家は時間と共に設備が古くなり、雨漏りなど家自体の老朽化が進みます。何より家のバリアフリーや今後この家をどうするかといった相続についても考えなければなりません。
そんな実家について、古い家を壊して新しく建てる「建替え」か間取り変更など新たな付加価値を加えて大規模に「リノベーション」をするか検討される人も多くいらっしゃいます。老朽化した部分のみを修復する「リフォーム」という手段もありますが、親の実家の場合は傷みも激しいため、「建替え」か「リノベーション」で検討される方が安心でしょう。
まず考える上で、重要なポイントは以下の2つとなります。
・目的の明確化
・「期間」「タイミング」「内容」について
■目的の明確化
実家を建替えもしくはリノベーションの計画を始める前に、目的をハッキリさせましょう。その際は「6W2H」で考えると明確になります。
WHAT:具体的には何を改善したいのか?
WHO:どなたと住む予定なのか?
WHEN:いつまでに入居する予定なのか?
WHERE:どの部屋を?どの部分を?
WHOM:どのような建築会社(大手? 地元?)へ依頼したい?
HOW:どのような生活スタイルが希望?
HOWMUCH:資金計画は?ローン?現金?どなたが出資するのか?
以上の項目についてハッキリさせると、やるべきことが少しずつ見えてきます。ご夫婦間や親子間でも考えは違うでしょうから、実家に手を入れる場合にはこれらの意見調整をすることが必要になってきます。
■「期間」「タイミング」「内容」について
1. 期間
実家をどうすべきかについては、すぐには結論に達しにくい内容かと思います。親子間でも話し合うことでしょうし、兄弟姉妹との調整もあるかと思います。ご家族間での調整なども含めて、依頼する会社をいつまでに決定するか、入居予定日をいつにするかなど目標をしっかり定めておくことが必要です。ご家族によって個人差があるため、予定通り進まないことも多くあるので、予め余裕を持ってスケジュールは立てておきましょう。
2. タイミング
「相続」については相談しにくい話題かと思います。それを話題にするタイミングもしっかり見極めましょう。例えば、実家に帰省した時などに相談することで、少しでも摩擦なくスムーズにお話を進められるのではないかと思います。何より、電話などではなく顔を合わせて相談することをおすすめします。
3. 内容
先ほどの「6W2H」をベースに、検討すべきことは多くあります。
例えば、実家を将来誰が引き継ぐか、その場合に親と同居するのか・しないのか、同居しない兄弟姉妹には代わりに別の何かを譲り渡すのかなど、センシティブな内容ばかりですが、とても重要です。しっかり話合い、全員が納得できる方法を検討しましょう。そのためには、上で挙げたように、話を切り出す「タイミング」が重要になるかと思います。
【2】 建替えとリノベーション 何で選ぶ?
では、概ね将来の実家の方向性が固まってきたとして、次に具体的な改善計画を考えてみましょう。実家の築年数にもよりますが、「建替えとリノベーションどちらにした方が良いのか」というご相談を数多くいただきます。
ここでは、その判断基準について、主に以下の4点から検討をします。
・法規制
・建物の耐震性
・今後のライフプラン
・資金計画
■法規制
工事にあたり建築確認申請が必要か否かが大きな分岐点です。建替えの場合、申請が必要であれば、前面道路が狭い場合にはセットバックして敷地が狭くなることも考えられます。敷地を狭くしてまで建替える必要がないという事であれば、リノベーションを選ばれる方がいいかもしれません。ただし、リノベーションでも建築確認申請が必要なケースもありますので、検討の際にはハウスメーカーや建築事務所に確認が必要となります。また、実家に建築当時の図面があるか、建築確認申請を取っているかも事前に確認しておくことで、その後の計画がスムーズに進みます。
■建物の耐震性
実家の耐震性の有無は、建替えかリノベーションか判断する上で、重要なポイントになります。
昭和56年5月31日までに建築された家は「旧耐震」基準で建てられた家となり、耐震性に不安が残ります。そこで、実家の耐震性を耐震診断等で確認する事をおすすめします。建物が傾いていたり、雨漏りが長く続いた家の場合には、骨組みが腐っていたり、シロアリの被害がある場合が高く、地震に対して強度が低くなっている可能性が考えられます。スケルトン(骨組みのみ)状態まで解体することでリノベーションすることは可能ですが、地盤が傾いている場合には多額の費用が掛かってしまい、建替えよりも費用が掛かる可能性もあります。
そういった建物の場合は、建替えであれば上記の懸念事項はすべてクリアされ安心です。現行の耐震基準に沿って建築され、工事中も第三者のチェックが入り、行政から建築確認申請、検査済証も発行されます。
■今後のライフプラン
人生における3大資金として「教育資金」「老後資金」「住宅資金」の3つがあげられます。この資金を管理する上で、キャッシュフロー表等で収支を確認する方法があります。その資金をどう使うかについては、「その住まいを将来的にどうしたいのか」で計画の進め方が変わってきます。20年、30年後はどのような家族構成なのかを想定して、今回の計画は最小限のリノベーションなのか、もしくは建替えた方が良いのか判断することもできます。今後のライフプランを家族でしっかり検討することから始めましょう。
■資金計画
実家を工事する場合の費用負担について注意が必要です。例えば、子供が結婚して家を建築する費用の一部を親が負担する場合には、「贈与税」の優遇*があります。非課税(現在は年間110万円等)の範囲内であれば問題にはなりませんが、それ以上の費用負担や、子供がローンを組む場合には建物の持ち分を一部子供に移転(贈与)することも検討した方が、なにかと優遇されるケースが多くなります。一般的に土地は評価額があまり変わりませんが、建物は古くなると評価額が落ちていきます。仮に贈与税が発生したとしても数万円程度でおさまることもありますので、併せて検討することをおすすめします。
住宅ローンとリフォームローンでも金利が違うだけでなく、各金融機関によっても条件が異なります。その計画に一番寄り添って協力してくれる金融機関を見つけられることも重要です。
*詳細は、「【第100回】 相続税対策のチャンス! 最大1,500万円まで非課税となる 住宅資金贈与の「贈与税非課税枠」」をご覧ください。
今回のまとめとして、実家を工事する場合には、家族内での意見調整から始まり、建物の調査・計画の方針決定・資金計画など検討することが数多くあります。「建替え」もしくは「リノベーション」については、それぞれの検討内容について、メリットやデメリットなど個別の状況によっても様々な判断が必要となります。どちらを選んだ方がいいのかは、専門的な知識も必要になりますので、まずは、今まであげた内容を家族としっかり検討しつつ、お近くの住宅展示場などでハウスメーカーにご相談されてみることをおすすめします。
※2021年11月30日時点の情報を基に作成しております。
監修・情報提供:金内 浩之 (一級建築士)
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